武蔵野五輪弾圧救援会

2021年7月16日に東京都武蔵野市で行なわれた五輪組織委員会主催の「聖火」セレモニーに抗議した黒岩さんが、『威力業務妨害』で不当逮捕・起訴され、139日も勾留された。2022年9月5日の東京地裁立川支部(裁判長・竹下雄)判決は、懲役1年、執行猶予3年、未決算入50日の重い判決を出した。即日控訴、私たちは無罪判決をめざして活動している。カンパ送先⇒郵便振替00150-8-66752(口座名:三多摩労働者法律センター)、 通信欄に「7・16救援カンパ」と明記

五輪コロナ禍の獄中よもやま話 その3 ……黒岩大助

◆   昔と今の留置場 2 ◆f:id:kyuenmusasino:20220117010736j:plain

  私の場合、7月16日に逮捕された後、18日に検事調べ、その19日に裁判官の勾留質問。当然10日間の勾留が決定され、接見禁止も付いており、弁護士しか面会できない。アクリル板越しだが、面会のたびに見せてもらった激励文には、本当に励まされた。毎日のようにオリパラ関係や運動関係などの本や衣類を差し入れてくれ、感謝に絶えなかった。しかし、外は真夏にも関わらず、房の中は冷房がきき過ぎて上着も靴下を重ねて寒さをしのいだ。また、タオルや歯ブラシ・歯磨き粉などは中で購入しなけばならず、散財した。昔入った石鹸は、まさに「石鹸禁止」である。さらには、法律や訴訟資料などもペンと一緒に入れることができないという訳のわからない規則がいつの間にかできていた。

 どっちみち、勾留満期の日からさらに10日間延長され、今度は間違いなく起訴され長期戦になるからと、ひたすら本を読む。官本(留置場に備え付ききの本)の中で、テレビドラマではちっとも面白くなかった西村京太郎の十津川警部シリーズの原作は社会性に富み、すっかりはまってしまった。昔は、官本といえば赤川次郎の「三毛猫ホームズ」シリーズか「ゴルゴ13」シリーズ。「三毛猫ホームズ」は読む気はしなかったが、「ゴルゴ13」はテロリストが主人公なのに官本でいいの?と思いながらも全て読んだ。
 最初に差し入れてもらった本は二冊。1986年に30歳の若さで亡くなった弁護士多田謠子さんの追悼集である「私の敵が見えてきた」。誕生から国鉄民営化粉砕闘争や三里塚闘争などの弁護活動に勤しみ、過労の末肺炎で亡くなるまでの記録である。彼女の記念の意味を込めた多田謠子反権力人権賞に、2013年、私も参加していた野宿労働者の支援団体「のじれん」も受賞したが、その時贈呈していただいたこの本を改めて熟読。もう一冊は、1892年にアメリカの鉄鋼会社に対する労働組合の闘いに弾圧・虐殺に対して工場主を拳銃で撃つが失敗したアナキストアレキサンダー・バー クマンの14年に及ぶ体験を赤裸々に綴った「監獄の回想」。直接行動としてのテロとその未遂、そして過酷な刑務所での虐待と著書の執筆から出版に至るまでの獄中記である。何度も繰り返す人民のための「殉教」との言葉が心に染みた。
 他にもいわゆる大逆事件の本。同じく大逆罪をデッチ上げられた金子文子の「何が私をこうさせたか」には号泣してしまった。また同年摂政ヒロヒトを暗殺しようとして処刑された難波大助など、それらの感想を述べたらそれこそ一冊の本になってしまうので、最後に大杉栄の本について述べたい。権力は、私の思想傾向を熟知しているのでこのような本の差し入れは問題ない? 彼は言うまでもなく、金子文子は同志朴烈とともに関東大震災の際に予防拘束され大逆罪に問われたが、同じ時期、国家権力である憲兵隊により虐殺された大杉の著作からの選集である。1969年に発行された中央公論社の「日本の名著」にあるその本を差し入れてもらい久しぶりに読んだが、内容よりも編集責任者の名前に「えっ!」と驚いた。多田道太郎・京大教授ではないか。多田謠子弁護士のお父上である。奇縁を感じた。
 これらの本で昼は気合いが入りテンションが上がったのだが、夜はなかなか眠れずようやく寝入ったら、夢で私が唯一嫌いな蛇が這い回り「ギャー!」と悲鳴をあげた。また「シュプレヒコール!」と叫んだり、眠りながら何人かで討論したりして、担当をビビらせた。
 また、驚いたのは、警察の各部署での女性の進出である。昔婦人警官と呼ばれていた頃、交通係でもっぱら駐車違反取り締まりが担当だった。デモの時、女性の公安や機動隊がいるのは知っていたものの、最初に写真撮影や指紋採取を命じた公安も女性だった。公安と言えば、検察が開示した資料にあった、恐らく警視正クラスと思われる本庁公安総務課長も女性。また留置場で点呼の時、先頭を歩く留置管理課長の警部も女性だった。最も驚いたのは、昔は男性警官だけの護送担当に、女性が任務についていたことだ。単独押送で、男性とその女性に挟まれて、検察や裁判所に行く。警察学校を卒業したばかりであろう彼女はコクリコクリとしていて、思わず「逃げちゃいますよ」と言うとビクッっと目を覚まし、3人とも笑ってしまった。

 そんなこんなで留置場生活編を長々と語ってしまったが、7月28日勾留理由開示裁判、28日検事調べと3日の勾留再延長、29日公安による爆竹や衣類などを除いた押収品の還付を経て、30日に「晴れて」起訴の通知、弁護士を呼んだか「えっ!」と驚かれる。私もまた他の「仲間」と同じく起訴後、2か月余り代監に留め置かれたが、9月22日、「ようやく」拘置所に移送された。(立川拘置所編へ続く)