武蔵野五輪弾圧救援会

2021年7月16日に東京都武蔵野市で行なわれた五輪組織委員会主催の「聖火」セレモニーに抗議した黒岩さんが、『威力業務妨害』で不当逮捕・起訴され、139日も勾留された。2022年9月5日の東京地裁立川支部(裁判長・竹下雄)判決は、懲役1年、執行猶予3年、未決算入50日の重い判決を出した。即日控訴、私たちは無罪判決をめざして活動している。カンパ送先⇒郵便振替00150-8-66752(口座名:三多摩労働者法律センター)、 通信欄に「7・16救援カンパ」と明記

 東京高検・答弁書「被害がなくても威力業務妨害!」…安直すぎてなんでもありだな by 救援会

  東京高等検察庁 答弁書

2023年5月 3 0日

 


東京高等裁判所第2刑事部殿

 

             東京高等検察庁検察官検事 大澤新一

 

被告人黒岩大助に対する威力業務妨害被告事件につき、弁護人及び被告人の控訴趣意に対する検察官の意見は以下のとおりである。

なお、略語の使用は、特に断らない限り、原判決の表記に従う。

 

 

第1 意見

本件各控訴趣意には理由がないので、本件各控訴は速やかに棄却されるのが相当と思料する。

なお、以下では、 主として弁護人の控訴趣意に対する検察官の答弁を記載する。

 

第2  理由

1 弁護人の控訴趣意

弁護人の控訴趣意は、要するに、事実誤認及び法令適用の誤りと思料され

 

  • 事実誤認

ア 被告人の行為により、イベントに遅延が生じたと認定しているが、この事実認定には誤りがある

イ 原審は、被告人が複数回爆竹を爆発させたととれるような事実認定を行っており、この事実認定には誤りがある

ウ 被告人が、柵を乗り越えようとした際、U証人らの制止を振り切りとした事実認定には誤りがある

 

  • 法令適用の誤り

ア 被告人の行為は、威力業務妨害罪の威力に該当せず、また、結果も発生していないから、被告人の行為に威力業務妨害罪を適用したのは法令適用の誤りである

イ 被告人の行為は違法性が阻却され、また、可罰的違法性もない

というものである。

 

2 原判決の判断の要旨

(1) 事実認定について

ア 本件イベントに遅延が生じたかについて

Uによれば、退場者の中にはスタッフの指示に従わずに退場した者がいたが、スタッフとしては20分くらいの間、参加者等に待機を促していたというのであって、実際に、本件行為から退場が概ね終了するまで20分程度を要していることからすれば、Uが感じたという20分くらいという時間には一応の根拠がある(原判決4ページ以下)

 

イ 爆竹の破裂について

被告人は、左手に持った爆竹にライターで点火し、体育館敷地に更に近づきながら、爆竹をUとは別のスタッフらが立っていた体育館敷地内に投げ入れた。爆竹は、被告人が手に持った状態で数回、被告人が投げた後空中や体育館敷地内で数回爆発し、爆発音を発した(原判決4ページ)

 

ウ 被告人が柵を乗り越えようとした点について

被告人は、爆竹の爆発音が鳴り響く中で、プラスチック製の棚に駆け寄って手をかけ、棚から身を乗り出して乗り越えようとした。(中略)Uは、すぐに柵を乗り越えようとする被告人に後ろから抱きつき、集まってきた警察官らと共に被告人の体育館敷地内への立ち入りを阻止した(原判決4ページ)

 

(2) 構成要件該当性について

本件行為は、Uらをして、本来行う予定であった活動を中断させ、異常かつ緊急の事態への対応を余儀なくさせるものであって、その具体的な態様、爆竹が爆発した位置、生じた爆発音の大きさ及び回数、爆竹投てき前後の被告人の行動並びに周囲の状況等からすれば、刑法234条にいう「威力」に該当し、本件行為は、爆竹がUらの至近で爆発して火傷をしたり、柵を乗り越えようとする被告人とUらが接触して転倒したりする危険を内包するもので、被害会社の業務を妨害する抽象的な危険を有する行為であり、本件行為により、予定していた業務の中断ないし変更を強いられたものであり、具体的な業務妨害の結果も生じていたことが認められる(原判決5、6ページ)

 

(3)違法性阻却事由の有無及び可罰的違法性の有無について

本件行為が、Uらをして、被告人が生ぜしめた事態への対応を余儀なくさせ、本来予定していた被害会社の業務を直接又は間接的に中断ないし変更させるものであり、かつ、Uらに相応の怪我を負わせる危険性を包含するものであることからすれば、その手段や方法は、表現行為としても相当性を欠いている。また、本件行為によって、本件業務の遂行が侵害された程度は小さいとはいえない一方、被告人が、自己の意見や抗議を表現する手段は、他の方法によって行うことも十分に可能であり、現に他の抗議活動は適法に行われていることも併せると、本件行為を制限することによる表現の自由の制約の程度が大きいとはいえない。本件行為の違法性は阻却されない。また、本件行為に対するこれまでの認定や評価を踏まえれば、本件行為の手段や結果が、業務妨害罪の保護法益を侵害したと認められない程度に軽微であるとはおよそいえないし、本件行為には可罰的違法性がないという弁護人の主張にも理由がない(原判8、9ページ)

 

3 原判決の判断が正当であること

上の原判決の証拠の評価や事実認定は正当であり、それを前提に、被告人に威力業務妨害罪の成立を認めた結論も正当である。

 

4 弁護人の主張に理由がないこと

(1)事実誤認の主張について

ア 弁護人は以下のとおり主張して原判決には事実誤認がある旨主張する。

(ア) 「退場する参加者を20分くらいの間、やむを得ず待機させた」旨のU証人の証言は、客観証拠とも符合せず、信用できないから、U証人の証言を根拠に参加者の退場が20分くらい遅れたと認定した原判決には事実の誤認がある(控訴趣意書5ページ以下)

(イ) 被告人が爆竹に点火したのは1回であるのに、被告人が爆竹を複数回爆発させたととれるような事実認定をしており、 事実の誤認がある(控訴趣意8ページ)

(ウ) 被告人は、柵を乗り越えようとしたところを後ろから制止されたのであり、警備関係者の制止を振り切ってはいないから、「警備関係者らの制止を振り切り、同バリケードを乗り越えて同敷地内に侵入しようとし」た旨の認定は誤っている(控訴趣意書9ページ)

 

イ 弁護人の各主張に理由がないこと

(ア)について

弁護人は、甲16の映像から、最終退場者が17時36分32秒であったとするが、そもそも、弁護人が甲16から確認したという退場者数は合計104名であるところ(控訴趣意書7ページ)、当日の参加者はスタッフを除いて175名が予定されており(原審弁3号証10ページ)、参加予定者の全てが当日参加していなかったとしても、弁護人が甲16の映像で確認したとする104名とは大きな乖離があり、退場者の全てを甲16で確認できていない可能性が高いから、最終退場者が17時36分32秒であったとする弁護人の認定自体がそもそも採用し難い(なお、甲16の映像からは、17時36分32秒以降にも参加者と思われる人の退場は認められる。)。

また、仮に17時36分32秒に最終退場者が退場していると仮定しても、武蔵野市長らの入退場口からの退場が17時19分であれば、当日に予定されていた当初のタイムスケジュールはともかくとして、17時19分の数分程度前には、当日のイベントが終了していることは容易に想定できるから、実際のイベント終了時刻が17時19分より前、例えば17時15分頃であったと考えれば、警備に当たっていたU証人の感覚として、退場が順調に進まなかったことも踏まえて、「最後の方に退場する参加者を20分くらい待たせた」と考えても特段不自然ではないから、U証人の証言が客観的事実と矛盾しているとはいえず、弁護人の主張には理由がない。

なお付言すれば、甲16の映像によれば、17時23分37秒から17時27分56秒までの4分19秒間、退場者が途絶えていることが確認できるが、これは被告人の身柄が確保されて安全が確認されるまで、参加者の退場が中断したことをうかがわせる事情であるから、この映像も、「実際に遅延が生じた」 旨証言するU証人の証言を裏付けている。

 

(イ)について

原判決は「被告人は、左手に持った爆竹にライターで点火し」、「爆竹は、被告人が手に持った状態で数回、被告人が投げた後空中や体育館敷地内で数回爆発し」と判示しており、被告人が1回火をつけたところ、爆竹の性質上、複数回の爆発があった旨認定していることは明らかであり、被告人が爆竹に火をつけたのが複数回である、あるいはそのように読めるような判示はしていないから、弁護人のこの主張は原判決の説示を誤解した主張である。

 

(ウ)について

確かに「罪となるべき事実」には「警備関係者らの制止を振り切り」旨の表現があるが、原判決が理由中で認定した事実は、前記のとおり、「Uは、すぐに柵を乗り越えようとする被告人に後ろから抱きつき、集まってきた警察官らと共に被告人の体育館敷地内への立ち入りを阻止した」というもので、原判決がそのような事実認定を前提としていることは明らかであるから、原判決に事実の誤認はない。

 

(2)構成要件該当性について

ア 弁護人は、「威力」に該当しないとして以下のとおり主張して原判決を批判する。

(ア) 「威力」該当性については、普通人が当該被害者のような事情の下に置かれたならばその自由意思が抑圧されるかどうかによって決定されるのだから、U証人らがどのような事情の下に置かれていたのかについて事実を恣意的に取捨選択して済ます場合には「威力」該当性の判断について審理を尽くしたということはできない(控訴趣意書16ページ)

(イ)①U証人らは、被告人が爆竹を手にしているのを見ているのだから「突然近くで爆竹が爆発したり、敷地内に投げ入れられた」事象であると評価することはできない(控訴趣意書18ページ)

②「さらに激しい爆発が起こったり、複数人による同様の行為が行われたりするのではないかと考え、驚いたり、恐怖を感じたりした」という事実はU証人の証言には現れていない上、仮にU証人がそのように考えていたとしても一時の思い過ごしに過ぎなかったことは明らかであるから「威力」該当性は否定されるのに、原審はこれを認めている(控訴趣意書18、19ページ)

(ウ) 「本来行う予定であった退場しようとするイベント参加者等の誘導等の活動を中断させ、異常かつ緊急の事態への対応を余儀なくさせるもの」、「そのような危険を感じさせ、更にこれを未然に防止するという対応を取らざるを得ない状況を生じさせる程度のものである」という原判決の理由は、周囲の状況等の諸要素を考慮したうえで、普通人が本件においてU証人らのような状況に置かれたならばその自由意思が抑圧されるのかという観点からの検討が尽くされていない(控訴趣意書19ページ以下)上、妨害結果が発生しているから、威力性が認められるという転倒した論理をしている。

 

イ 弁護人の各主張に理由がないこと

(ア)について

弁護人の主張する「恣意的な取捨選択」がいかなる意味かは不明であるが、本件では、以下のとおりの事実が認められ、 本件犯行が「威力」に該当することは明らかである。

まず、本件では爆竹が使用されている。

本件で使用された爆竹は、原審における被告人供述を前提とすれば、いわゆる100円ショップで購入した玩具であり、火薬類取締法施行規則第1条の5の1項の「がん具として用いられる煙火」中、

 

 へ 爆発音を出すことを主とするもの

 ( 5 )「爆竹」

 

で規定されたものである。

同条では玩具煙火としての爆竹は、「爆竹(点火によって、爆発音を出す筒物であって筒の外径が4ミリメートル以下のものを連結したもののうち、その本数が20本以下のものに限る)であって、その1本が火薬1グラム以下、爆薬(爆発音を出すためのものに限る)0.05グラム以下のもの」と規定されており、爆竹は、玩具であっても、爆発音を出すことを目的としたもので、火薬類取締法2条で定義される火薬類3種である火薬、爆薬、火工品のうち、爆薬を含むものである。

このように、爆薬を含み、連続して爆発音を出すことを目的とした玩具爆竹は、爆薬を含まない玩具花火(前記火薬類取締法施行規則の「がん具として用いられる煙火」中、イの「炎、火の粉又は火花を出すことを主とするもの」)等とは、一般社会においても異なった取り扱いがなされることがあり、例えば地方公共団体が管理する公園等では、前記の爆薬を含まない玩具花火の使用が許可される一方で、爆竹やいわゆるロケット花火(前記「がん具として用いられる煙火」中、ニで規定)のように、爆薬を含むもの、つまり爆発音を出すものについては、使用禁止とされているところが少なくないのは公知の事実である。

また、爆竹は、地面に置いた状態で導火線に火をつけるのが本来の使用方法であり(公益社団法人日本煙火協会のホームページ等を参照)、およそ本件のように空中に投てきされることが予定されているものではない。

そして、玩具であっても、その使用場所、時間、使用態様等によっては人の自由意思を制圧する道具となり得ることは、模造刀やモデルガン等の玩具を使用した刑事事件が過去に多数立件されて有罪となっていることからも明らかで、玩具であることが直ちに「威力」該当性を否定するものでもないし、 一部の祭祀等で爆竹が広く使われているケースはあるが、そのような祭祀等では爆竹が使われることが前提とされており、祭祀等に参加する者はそれを認識した上で参加をするのが通常であるから、一部の祭祀等で爆竹が使われていることが「威力」該当性を否定するものでもない。

次に、本件犯行時の周囲の状況である。

原審弁3号証、「東京2020オリンピック聖火リレーDay08 7月16日(金)」の26べージには「持込禁止物品」として、「③爆薬、火薬、発煙筒、花火、発火装置、爆発するおそれのあるもの、可燃性物質その他危険物(個人利用のライターを除く)」と規定されており、また、同ページの「禁止行為」にも⑭に「運営者の許可を得ずに、会場内で火気を使用すること。」旨の規定がある一般人の立ち入りが規制されていた本件イベント会場において、花火や火気の使用は想定されていなかったことが認められる。

また、本件犯行は、イベント終了時刻に近い午後5時過ぎ頃に敢行されており、被告人が爆竹に点火をして投てきした場所は、子供も含めた一般人が多数通行していた本件イベント会場に接する歩道上であり、投てきされた爆竹が破裂した場所は、イベント参加者退場の誘導にあたるべくそれなりの数のスタッフ等が待機していた本件イベント会場敷地内であった。

最後に、被告人の行動である。

被告人は無言で本件犯行現場に近づくと、歩道上で持っていた爆竹に点火し、それを本件イベント会場内に投てきして本件イベント会場内で破裂させると同時に、プラスチック製柵で囲われ一般人の入場が禁止されていた本件イベント会場内に、その柵を乗り越えて侵入しようとしたのである。

このようにおよそ火気の使用が想定されていない本件イベント会場及びその至近で、連続した爆発音を出すことを目的とする爆竹が投てきされて実際に爆発し、それに続いて爆竹を投てきした人物が柵を乗り越えて侵入しようとすれば、そのような行動を起こした人物の意図は全く不明であり、また、その人物がその後どのような行動に出るのかも全く予想できないから、被告人の一連の行動に対し て、U証人を含めてイベントの運営等に従事していたスタッフ等が驚きや少なからぬ畏怖を感じるのは当然であるから、本件行為が、最高裁昭和28年1月30日判決のいう「犯人の威勢、人数及び四囲の情勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力」に該当することも明らかである。

したがって、本件行為に「威力」該当性を認めた原判決の判断に誤りはなく、弁護人の主張は理由がない。

 

(イ)について

弁護人は(イ) ①として、「U証人は、被告人が爆竹を手にしているのを見ているのだから、Uからみて、突然近くで爆竹が爆発したり、敷地内に投げ入れられた事象であると評価することはできない」などと主張するが、爆竹を手にしている者が誰でも当然にそれを爆発させ、投げ入れたりするものではないから、この弁護人の主張は理由がない。

前記のとおり、本件イベント会場では、爆竹の使用は予定されていないのであるから、本件イベント会場付近に爆竹を持っている人物がいること自体が予想外であるし(現場周辺で爆竹を使用する祭祀が行われていたわけでもない。)、まして、それが点火され、本件イベント会場内に投てきされるなどということは、全くの予想外であるから、被告人の行為は、U証人をして「突然」の事象であったことは明らかである。

次に(イ) ②については、最高裁昭和28年1月30日判決は「且つ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りるものであればよいのであって、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである。」としているから、U証人自身の自由意思が制圧されたことは必ずしも必要ではない上、原判決は、被告人の行為が客観的に見て「さらに激しい爆発が起こったり、複数人による同様の行為が行われたりするのではないかと考え、驚いたり、恐怖を感じたり」する行為である旨説示したと解されるからU証人の証言に現れていないからといって前記認定が許されないわけではない。

また、弁護人は、U証人が恐怖を感じたとしても、それは昭和28年5月27日の広島高等裁判所の説示にある「一時の思い過ごし」に過ぎないなどと主張するが、弁護人の指摘する裁判例はおよそ本件とは事案を異にし、同裁判例がその説示において使用する「一時の思い過ごし」との表現も、具体的事実を判断する際に使用している表現に過ぎず、およそ先例として意味はないというべきである。

 

(ウ)について

  (ウ)について、弁護人は、「原判決の理由は、周囲の状況等の諸要素を考慮したうえで、普通人が本件においてU証人らのような状況に置かれたならばその自由意思が抑圧されるのかという観点からの検討が尽くされていない」、「原判決は、結果が発生しているから威力が認められるという転倒した論理をしている」旨批判するが、原判決も、「その具体的な態様、爆竹が爆発した位置、生じた爆発音の大きさ及び回数、爆竹投てき前後の被告人の行動並びに周囲の状況等からすれば、刑法234条にいう『威力』に該当し」旨判示し、前記のとおり、爆竹の性質を前提として、本件イベント会場周囲の状況や爆竹の爆発場所や爆発回数、被告人の前後の行動等から「威力」該当性を認定しているのだから、その判断は正当である。

また、結果が発生していることは、それなりの実行行為が存在したことを推認させるものであるから、結果が発生していることを「威力」の存在を推認させる事情として併記したからといって、転倒した論理とはいえない。

 

ウ 弁護人は、「業務妨害の危険性が認められる」とした原判決を次のとおり批判する

(ア) 原判決は、「火傷あるいは転倒等、U証人らの身体の安全への侵害の可能性を理由に業務妨害の危険性及び『威力』該当性が認められる」とするが、被告人による行為がなされた当時のU証人らが置かれた事情を捨象して爆竹の一般的な危険性に固執し、転倒の危険性についての蓋然性も明らかでなく、転倒の危険性は、U証人の行為によるものであり、被告人の行為によるものではない(控訴趣意書23ページ以下)。

(イ) 原判決は、「被告人が本件現場で取り押さえられなかった場合には、柵を乗り越えて体育館敷地内に侵入し、所持していた残りの爆竹を全て爆発させるなどの行為に出た可能性が高い」とするが、被告人は「(中に入って爆竹を鳴らすとかそういう考えはあったんですか)全くありません。」と供述しているから、前記説示は証拠に基づいていない(控訴趣意書26ページ以下)

しかし(ア)については、最高裁昭和28年1月30日判決は「刑法234条業務妨害罪にいう業務の「妨害」とは現に業務妨害の結果の発生を必要とせず、業務を妨害するに足る行為あるをもって足るものであり」とし、いわゆる危険犯とされているところ、弁護人の主張する「当時のU証人らが置かれた事情を捨象して」がいかなる意味かは不明であるが、いずれにしても、爆竹を破裂させた上で、同所に設置されたプラスチック製柵を乗り越えようとしたという被告人の一連の行動を前提に、そのような行動が行われれば、本件イべント会場の運営を担当していたU証人らが、被告人の行動を制止しようとすることは当然であり、そうであれば、更なる爆竹の破裂によってU証人が火傷を負う、あるいは被告人を制止しようとしたU証人が転倒するなどの、U証人の身体の安全への侵害の可能性が認められると判断して、業務妨害の危険性を認定しているのであり、その判断は合理的である。

次に(イ)については、被告人が、実際に爆竹を破裂させ、さらに多数の爆竹を所持した状態(原審甲4乃至8号証)で柵を乗り越えようとしたことは証拠上明らかな事実である上、被告人自身も、「今回爆竹を投げた理由は、オリンピック、それから聖火イベントに反対の意思表明をしたいからだとおっしゃいましたね。」という弁護人の質問に「はい。」と答えているから、「被告人が本件現場で取り押さえられなかった場合には、柵を乗り越えて体育館敷地内に侵入し、所持していた残りの爆竹をすべて爆発させるなどの行為に出た可能性が高い。」旨の原判決の説示は、これらの証拠から優に認定できるからその判断は正当である。

弁護人は、被告人が、「本件イベント会場敷地内で爆竹を鳴らす考えは全くなかった」旨供述していることを理由に、原判決の前記説示を批判するが、そもそも、被告人の供述は、多数の爆竹を所持して本件イベント会場敷地内に侵入しようとしたという客観的事実に反するし、被告人は、爆竹を破裂させることは、オリンピックに対する抗議の意思表示であると主張するのであるから、会場敷地内侵入後も、抗議の意思表示として多数の爆竹を破裂させようと考えていたことは明らかであるから、「本件イベント会場敷地内で、爆竹を鳴らす考えは全くなかった」旨の供述は到底信用することはできず、この信用できない被告人供述を前提とする弁護人の主張は採用の限りではない。

 

(3) 被告人の行為に違法性は認められない旨の主張について

弁護人はこの点について、本件イベントが被告人が抗議を行うのに適した場所であったこと、東京オリンピックが欺瞞に満ちたものであることなど縷々述べて、違法性阻却事由がある、あるいは可罰的違法性がない旨主張するが、いずれも独自の見解を前提とするもので、およそ理由がないから、違法性阻却事由の存在を認めず、可罰的違法性も認められるとした原判決の判断は正当である。

なお、被告人も控訴趣意書において、弁護人同様、自己の行為が正当である旨主張するが、独自の見解を前提とするもので、理由がない。

 

第3 結語

以上検討したとおり、弁護人及び被告人の控訴趣意にはいずれも理由がないから、本件各控訴は速やかに棄却されるのが相当である。

以上

 

これは謄本である。

前同日

東京局等検察庁

検事務官 加藤優弥

 

弁護団・控訴趣意書(上)は→ https://kyuenmusasino.hatenablog.com/entry/2023/04/07/221351

弁護団・控訴趣意書(中)は→ https://kyuenmusasino.hatenablog.com/entry/2023/04/12/025316

弁護団・控訴趣意書(下)は→ https://kyuenmusasino.hatenablog.com/entry/2023/04/16/030030

判決文は → https://kyuenmusasino.hatenablog.com/entry/2022/09/25/215456