武蔵野五輪弾圧救援会

2021年7月16日に東京都武蔵野市で行なわれた五輪組織委員会主催の「聖火」セレモニーに抗議した黒岩さんが、『威力業務妨害』で不当逮捕・起訴され、139日も勾留された。2022年9月5日の東京地裁立川支部(裁判長・竹下雄)判決は、懲役1年、執行猶予3年、未決算入50日の重い判決を出した。即日控訴、私たちは無罪判決をめざして活動している。カンパ送先⇒郵便振替00150-8-66752(口座名:三多摩労働者法律センター)、 通信欄に「7・16救援カンパ」と明記

3/7第4回公判 鵜飼哲さん「東京五輪は貧困者・福島被災者を棄民化するイベント。黒岩さんは野宿者支援の経験から反対を表現した」

◆速報!第4回公判レポート

  (なお証言内容は救援会の速記。文責はすべて救援会にあります)

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 武蔵野五輪弾圧は天気に恵まれている、と思う。保釈の日も、これまでの公判もいつも晴れている。救援活動は「待ち時間」が何かと多いから、これはラッキーなことだ。

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 3月7日、第4回公判も快晴。弁護側立証の二回目として、五輪反対運動で活躍してきた鵜飼哲さんの証人尋問が行われた。
 1時半の前段集会に合わせて、立川地裁前に人が集まり始める。トランクを引いて登場した鵜飼さんにさっそく発言をお願いする。
 つづいて、黒岩さんの長年の仲間Yさんが「戦争をやってるときにこんな裁判なんてやってる場合か!」と刑事裁判を批判。大きな拍手を受ける。
 さらに前回公判で証言したTさんが、北京パラリンピックを批判するアピール。最後に全体でシュプレヒコール。「これから大事なことをいうから裁判所で働いているひとはよく聞いてください!」と始まったコール。国のやることに言うべきことは言う。ロシアでも、日本でも。そんなことも考えた。

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 15時開廷。今回も傍聴席はほぼ満席。
 鵜飼さんが証人として入廷する。偽証をしないという宣誓をへて、証言へ。
 裁判長は鵜飼さんに対し、「証人の証言は、被告の行為の違法性阻却という弁護側の論点に基づいて行われるもの。研究活動を通じて得た五輪の問題性について客観的な説明をお願いします」と告げてはじまった。
 質問は山本弁護士から。
 鵜飼さんはまず、みずからの大学教員としてのキャリアを問われ回答。オリンピックに関する著作も数冊あると名前をあげた。
 被告の黒岩さんとは長年の知り合いで、1990年代から野宿者運動において黒岩さんが果たしてきた活動に大変敬意を抱いているという。
 鵜飼さんの証言は、近代五輪の原点から、今次東京五輪の問題性にいたるまさに全面展開というべき内容であった。

近代五輪とクーベルタンの思想

 フランス思想研究者である鵜飼さんにとって、「近代五輪の父」とされるクーベルタンがフランス人であることは重要な意味を持つ。フランスの近代史・近代主義が抱えてきた問題が、五輪のなかに流れ込んでいるからである。
 近代五輪は、1870年の普仏戦争後のフランスの動揺と関係がある。クーベルタンはこの不安定な、そして階級分化が進行する時代に、新しい国民統合の方法として、「体育教育」の普及を試みたという。だがこの試みはとん挫し、かわりに、巨大スポーツイベントとして近代オリンピックの開催が目指された。
 1870年代80年代には、ギリシア古代オリンピックの遺跡発掘も進んでいた。
 クーベルタンはその著作に、五輪の意義を書き記している。そこでははっきりと五輪は男子の世界であり、体育は兵士の育成と密接な関係があり、スポーツは「予備調教」とまで言っている。
 1935年、ナチス下のベルリン五輪を前にしたラジオ放送でクーベルタンは、「五輪は宗教」であり、「かつては神にささげた身体の技を国旗や人種に捧げるもの」であり、「五輪はエリートのものである」と話したという。
 そのクーベルタンが作ったのがIOC(国際オリンピック委員会)であり、いまでもIOCではクーベルタンは創設者として尊敬され、本質的な問いなおしはなされていない。クーベルタンが貴族であったことにも明らかなように、IOCは貴族性が強く、現在でも多くの王族を委員としている。

聖火リレーの歴史的問題性

 「聖火」リレーは、「聖火」と「リレー」に分ける必要がある。
 古代五輪でもプロメテウス崇拝のもと、会場に火が掲げられた。これが模倣され、1928年アムステルダム大会から、開会式にトーチによる火が使われるようになった。
 リレーは、1936年のベルリン大会から始まった。ナチスギリシアで採火した火をベルリンまでリレー形式で運び、古代五輪と近代五輪を結びつけるパフォーマンスを行った。まさに「創られた伝統」である。また、リレーの走路はそのまま逆向きにナチスの欧州侵攻の経路にもなった。
 日本における「聖火」リレーはどうか。日本語では「聖火」と訳されるが、英語ではolympic flame(オリンピックの炎)であり、本来は宗教性の要素はない。だが、日本語では「聖」の字を使ってしまっている。この翻訳が波及して、中国や韓国では「聖火」が用いられるが、このようにトーチに宗教性を付与している国は他にはない。
 五輪は本来は都市単位で開催するイベントなので、開催都市で盛り上がっていても、同じ国の別の都市では大して盛り上がっていない、ということは本来はあり得る。ところが、「聖火」をリレーで国内を巡回させることで、五輪がナショナルイベント化してしまう。

 オリンピック招致がかかえる問題性

 2032年大会は、オーストラリアのブリスベンで決まったが、IOCで投票が行われずに決定。実は2020東京大会後、五輪は立候補都市が満足にない、という状況が続いている。また住民投票で招致活動が否決されることも、プラハハンブルクで起きている。莫大な税金の浪費など五輪の問題性はすでに知れ渡っており、「民主主義が働くと、五輪はできなくなる」状況だと鵜飼さんは指摘。
 2020年の東京大会も、最初から問題含み。2016年の招致に失敗したあと、森元首相の音頭で再招致活動が始まったが、2020年の招致は最初から神宮外苑地区の大規模な再開発という利権イベントの性質だった。
 2012年に安倍が首相になると、オリンピック招致に国家戦略的な位置づけがなされる。それこそ「原発事故から目をそらすための招致である」。2013年ブエノスアイレスIOC総会、安倍は「福島の原発事故はアンダーコントロールされている」「事故は東京の未来に影響を及ぼさない」と言った。この発言には、東京電力幹部ですら耳を疑ったという。IOCのなかにはその発言を疑う者ももちろんいたはずだが、総体としてはこの発言を利用して五輪を推進するという共犯的な行為をおこなった。
 招致活動にはこれまでも賄賂がつきものだったが、東京大会においては竹田元JOC会長の賄賂疑惑があり、いまもフランス当局の捜査を受けている。

東京大会の開催準備過程の問題

 招致ファイルでは「コンパクト開催」「既存施設再利用」をうたい、開催費用「7300億円」とされていた東京五輪だったが、あったというまに国1兆6千億円、東京都8千億円、関連費用込みで3兆円を超える税金を浪費することになった。これは国内向きのウソといえる。
 また、招致ファイルでは「7月の東京はスポーツに最適」とうたった。これは外向きのウソ、といえる。最終的には多数のアスリートから暑さに抗議が出て、マラソンは会場変更を余儀なくされた。
 関連工事では自殺者、明治公園では野宿者の追い出し、宮下公園は閉鎖、霞ヶ丘アパートは立て壊し…五輪準備で行われた排除は、福島と同じ構造、すなわち棄民化政策だ。
 ほかにも、共謀罪の制定は「五輪開催のために必要」と合理化された。また、2018年には国が「五輪までに不法滞在外国人を一掃する」と宣言して、大規模な摘発・収容を進めた。それが収容者の命を奪うに至った現在の入管施設での虐待・迫害につながっている。

コロナ禍での五輪

 2020年初頭からのコロナウイルス拡大に際しても、安倍首相は「夏の五輪は必ずやる」「人類がコロナに打ち勝った証としてやる」などと非科学的な発言を繰り返した。
 1年延期が決定したあとに、コロナ禍での開催への反対が高まった。2021年1月の世論調査では、「中止」「再延期」が合わせて8割以上に達した。同2月、森喜朗組織委員長が女性差別発言で辞職すると、大会運営に対しても批判が各界から上がりはじめる。開会式の演出に当初かかわっていた宮本亜門は「こんな犯罪的な事業に関与してしまった」と厳しく批判し、JOC理事の山口香からも「批判をうけつけない五輪は平和の祭典たりうるのか」と声があがった。
 東京五輪の特徴として、ほとんどの主要メディアが大会スポンサーとしてかかわってきたことがあげられる。だが5月に信濃毎日新聞が社説で「中止」を初めて正面から掲げると、ほかの地方紙もこれに続き、ついには朝日新聞も社説で「中止」を訴えた。

世界の五輪反対運動について

 五輪反対運動の歴史は長い。だが、インターネットの発達によって海外の運動の情報がすぐに得られるようになり、連携することが可能になったのは近年の状況だ。2010年のバンクーバー冬季五輪、2016年のリオ五輪の反対運動は大きな盛り上がりを見せ、同時的に世界に発信された。
 東京大会反対運動でも国際的な連帯が目指された。とくに2019年の夏に、リオ・韓国・パリ・ロスの五輪反対活動家が東京にあつまり国際連帯のアピールが行われたことは画期的だった。
 海外での抗議行動では、トーチリレーに対する非暴力直接行動のアクションはたくさん行われており、水をかけるなどの行為も行われている。黒岩さんの抗議も、その文脈で理解されるべきものだ。

東京大会の「聖火」リレーについて

 東京大会のリレーは出発点が福島のJビレッジだったことが象徴的だ。福島のリレーでは、「復興」を演出した場所だけがカメラに映るようにコースが設定された。現地でも批判の声があがった。
 私がくらす長野でも公道リレーの反対行動があった。だがストリーミング配信していたNHKは、その抗議の声が聞こえないように音声をきり、「検閲」と批判を受けても開き直ったままだ。公道リレーはコロナ拡大で中止されたが、「聖火」イベントは全国で行われ、やはり全国で抗議行動が組まれている。

今回の黒岩さんの行為にどんなメッセージがあると考えるか

 東京五輪は暴力的に棄民化をすすめるイベントだった。黒岩さんは野宿者支援活動を長年行っており、五輪には招致段階から反対だった。2013年の開催決定から、2021年の開催まで8年間という長い月日があり、その間に多くの人が五輪に反対してきたが、止めることはできなかった。そのことへの怒りが爆竹に込められていたのだろう。五輪反対の表現の一つとして憲法21条で十分保護されるべきメッセージだと考える。黒岩さんは無罪だ。 

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 検察は反対尋問を行わず、裁判官からの質問もなかった。

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 鵜飼さんの証言によって、五輪の本質的な問題性が明らかにされ、黒岩さんの抗議の正当性が補完された。黒岩さんの爆竹は決してそれだけを取り出して判断すべきものではなく、東京招致以降8年間の矛盾・闘いの中での行為であること、鵜飼さんが主張してくれたのはそのことに尽きると思う。
 検察はもちろん五輪の是非と爆竹抗議は切り離したいのだろうが、だれがどう考えても、そういうわけにはいかないだろう。

 

【今後の公判日程】
第5回公判 4月20日(水) 被告人質問
第6回公判 5月18日(水)
第7回公判 7月4日(月) 
いずれも立川地裁101号法廷15時開廷 
※傍聴希望者は13時半地裁前前段集会にご参加ください。

 

憲法第二十一条】

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

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